小学生の「相棒」になる腕時計。
今回は「スクールタイム」という小学生向けのソーラーウオッチについて語りたいと思います。これまでもセイコーにはいくつか子ども向け商品がありましたが、より本格的な腕時計を打ち出したいという機運が社内で高まり、開発がスタートしました。僕らが子どもの頃に腕時計で時刻を確認していたように、今の子どもたちにも腕時計を使ってもらい、その魅力に触れてもらう。腕時計の未来を創造するうえでも若い世代へアプローチすることは、それはとても重要なことだと思いました。
デザインに取りかかる上でまず思ったのは、おそらくこの商品は子どもたちが人生で初めて手にする「ファーストウオッチ」だということ。では、ファーストウオッチとして相応しい機能やデザインとはどのようなものなのか? その思考の延長線上に見えてきたのが、子どもたちが活動するさまざまな場面で頼りになる「相棒」というコンセプトです。
たとえば、ケースのサイズ。「相棒」として彼らにしっかり馴染むのは、どれくらいの大きさか? メインターゲットを小学校の中・高学年と想定して検証を何度も重ねた結果、辿り着いたケースの直径は31.5ミリでした。
これらのカラーバリエーションには、「男子用」「女子用」という区別があるわけではありません。実を言うと初めの頃はその2つを分けて考えていたのですが、「男の子はこういうデザインが好き」と決めつける必要はないと考えて、最終的には性別で分類していません。ひとりひとりが好きなものを「相棒」として選べるようにしました。
使うシーンを想像すると、あるべきデザインが見えてくる。
小学校の中・高学年くらいになると、習い事や塾通いなど、活動範囲も広がってくる頃だと思います。また、例えば親戚の結婚式へのお呼ばれや、ピアノの発表会、中学受験での面接など、徐々にではありますが、よそいきな服装でお出かけする機会も増えてくるでしょう。テスト勉強や中学受験の試験などといった時間管理も求められてくる時期だと思います。
それらのシーンを踏まえて重視したのが「シンプルな造形と時刻の読みやすさ」です。ダイヤルには、判読性の高いアラビア数字を配置し、スッキリと見やすくすることを心がけました。
その上で、細部へのこだわりとして、数字のフォントの角にほんの少し丸みを付けて親近感を与えました。また、数字の印刷を何回も重ねて分厚く盛り上げて、フォントの個性が際立つよう工夫しています。
腕時計の中には、12時の表記を強調したデザインのものも多くあります。実は途中でそのようなデザイン案も検討していたのですが、やめました。教室にある掛け時計や、校庭から見える校舎に取り付けられた大時計、駅や公園にある時計などは、12個の数字が同じ大きさで配置されたものが多いですよね。このスクールタイムも、子どもたちが普段の生活の中で見慣れている時計と同じような佇まいの方が良いと判断しました。カレンダー機能がないのも同じ理由です。
そして、もうひとつ理由があります。僕たちはスケジュールを組むとき「13時から」とか「16時から」とか、一時間単位で設定することが多いけど、小学校は授業の1コマが45分だったりして、1時間単位で時間を管理していない。だから「12」の位置を強調しないほうが良いと考えました。
ストラップの素材は、よそいきの服装やきちんとした場でも使える、ということを考え「皮革(カーフ)」を採用しました。このストラップにはステッチを入れ、ランドセルのようなしっかりと作り込んだ印象になるようにしました。
また、通常のものよりも柔らかい仕立てになっているので、腕時計をつけ慣れていない子どもたちの腕にも、やさしく馴染んでくれます。
このスクールタイムはケースの縁が上にせり出していて、少し低い位置にガラスがはめられているのですが、このような構造にしておけば、もしも腕時計を何かにぶつけてしまった時でも、ガラスが傷つきにくいというメリットがあるんです。
ウオッチデザイナーは使う人やシーンをイメージしながらデザインしていくのですが、今回も例外ではありません。自分が小学生の頃はどうだったか? 今の小学生はどうなのか? ということを調べたり、実際に学校へ足を運んで観察した経験を活かしながら、プロジェクトチーム内でデザインの細部を詰めていきました。
「腕時計の魅力」を知るキッカケにしてもらいたい。
スマートフォンの普及などもあって、最近は腕時計をしない人も増えていると思うのですが、やはり腕時計には、時間を知るだけではない大きな魅力があると思います。
スクールタイムに出会った子どもたちが、腕時計の魅力を深く知っていき、やがて大人になって「これは素敵なデザインだ!」と思える一本に出会う。この腕時計が、そんな最初の一歩になれば嬉しいですね。そして、そんな彼らひとりひとりの感性に響く魅力的なデザインを、これから送り出していければと思っています。