世界に誇るストップウオッチへ。
その挑戦は1960年代にはじまった。
これまで数々の国際的な競技大会で「公式時計」を担当してきたセイコー。その歴史は服部時計店(セイコーグループの前身)の社長・服部正次の指示のもと、「世界に誇るストップウオッチづくり」に挑むことになった1960年にまで遡る。そして現在まで、セイコーはその技術で、スポーツが生み出す感動的な瞬間を支えつづけてきた。あの日の挑戦によって大きな進化を遂げた、ストップウオッチの視認性・正確さ・操作性。それは、現在の私たちのデザインにも息づいている。
誤差のない計測を追求して生まれた、
「ハートカム機構」ストップウオッチ。
当時の計測は、現在とは異なる「手動式」。そこには誤差がつきもので、複数の測定員による測定値を平均して公式タイムとしていた。「でも、その誤差の原因は測定員ではなく、機械の側にあるのでは?」そんな仮説をもとに研究を進めて生まれたのが「ハートカム」という新方式の機構だ。時計の中で振り子の役割を果たすテンプに「ハートカム」を取り付けることで、「計測開始時のテンプ位置の一定化」と「タイムの正確な四捨五入」を実現。タイム計測の精度が一気に向上した。
配色、書体、ケース、針の形状…。
すべてのデザインは視認性のために。
また、デザイン的な特徴を見ていくと、そこには当時のデザイナーの「視認性への飽くなき追求」が読み取れる。白色のダイヤルに黒い文字を印刷。そのアラビア数字は、判読性に優れたゴシック系の書体が用いられている。ケースの縁が非常に細いのも、なるべく表示部分を大きくするという意図だろう。判読性を高めるため、秒針はケースの端まで長く伸び、先端はダイヤルの側に少し曲げられている。これは、針と目盛りの距離を縮めて、数値を読み取りやすくするためだ。
スポーツ時計を追求して生まれたもの。
それを受け継いで、生まれていくもの。
1960年に「世界に誇るストップウオッチづくり」を目指してから、3年にわたる試行錯誤を繰り返したセイコー。その結果、1964年に行われる国際的な競技会のために、セイコーは9つのストップウオッチのほか、タイムの記録や着順の判定、観客への表示のために必要な「計時機器」を36種類・1278個も開発することとなる。そして、これらの計器づくりで培われた技術やデザインの思想は時として、半世紀以上の歳月を経た今も、セイコーのデザインに活かされている。
ストップウオッチのほか、セイコーが生み出した数々の装置。1964年以降も、さまざまな世界的大会で活躍しながら、その性能とデザイン性を高めてきた。