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Vol.1 虫の視点で、時計をデザインする。 Vol.1 虫の視点で、時計をデザインする。

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私たちセイコーが生み出すさまざまな腕時計たち。当然ながら、そのデザイン作法は自動車や家電のそれとは大きく異なる。携帯性の追求が至上命令のプロダクトにおいて、その限られた極小空間の中で、これまた極小の精密機械とせめぎ合いながら、いかに独自のデザインを生み出していくか。今回は、そんな腕時計をデザインすることの醍醐味を、デザイン統括部の久保進一郎が語ります。(2017.06.10)

久保 進一郎|Shinichiro Kubo
1999年、セイコー(現セイコーウオッチ)入社。2003年よりグランドセイコーのデザインを担当。現在はグランドセイコー全商品のデザインに目を通しつつ、スプリングドライブ、クオーツモデルを中心に自らデザインを行なっている。手がけた主なモデルはブラックセラミックスコレクション、クロノグラフ、ダイバーズ、GMTなど。

「100分の1ミリ」が、私たちのデザインの単位。

1999年にこの会社に入って、現在はグランドセイコーをはじめとして、さまざまな時計のデザインを担当しています。腕時計の外縁を含めたケースサイズは、大きくても50ミリを超えることはほぼありません。そんな小さな世界の中で、私たちが日々どのような哲学で、どのような細やかさでデザインをしているのかについて、お伝えできればと思います。

品番SBGJ217の正面写真
写真は、ステンレススチール製のケースに中にシルバーダイヤルが収められたグランドセイコー「SBGJ217」。この小さな腕時計の中に、デザイナーたちの「虫の視点」によるデザインの工夫を無数に凝らしている。
品番SBGJ217の正面写真
写真は、ステンレススチール製のケースに中にシルバーダイヤルが収められたグランドセイコー「SBGJ217」。この小さな腕時計の中に、デザイナーたちの「虫の視点」によるデザインの工夫を無数に凝らしている。

まずは、このグランドセイコー(GS SBGJ217)の文字盤を見てください。文字盤の周囲に置かれている長方形の「分目盛り」。これは太さが0.12ミリなのですが、その分目盛りの横にある、さらに細かい目盛りは太さが0.08ミリです。その太さを0.07ミリにするか、0.09ミリにするかで時計の視認性や美しさは大きく変わっていきます。太さが、一割以上も増減するわけですから。

文字盤の上で寸法計測をする100分の1サイズの久保のイメージ写真
たかが、100分の1ミリ。されど、100 分の1ミリ。その微差ともいえる違いが、視認性を究極にまで高めていくのだ。
文字盤の上で寸法計測をする100分の1サイズの久保のイメージ写真
たかが、100分の1ミリ。されど、100 分の1ミリ。その微差ともいえる違いが、視認性を究極にまで高めていくのだ。

0.01ミリや0.02ミリの違いなんて。時計を身につける人たちにはわからないのでは? そう思われるかもしれませんが、違うんです。その0.01ミリの違いを、普通の人たちも敏感に感じ取る。その微かな違いが時計の視認性はもちろん、人びとの安心感や心地の良さ、高揚感につながる。僕たちは、そう信じてデザインをしています。

さらに、この目盛りの接地面を見ていただくと。肉眼では分かりにくいのですが、目盛りと文字盤の間に、ごくごく薄い透明の層があります。そうしたほうが、デザインに奥行きが出て、見た目が美しくなるからです。この文字盤を小さな虫が歩いたら、池に貼った氷の上にいるような気分になるかもしれません。ちなみに、このクリア加工の厚さは0.05ミリ程です。

文字盤の上に乗るてんとう虫の写真
文字盤に施された0.05ミリ程のクリア加工。その上に文字や目盛りが配置されている。デザイナーの「虫の目」は、ただ高精度というだけではなく、「立体的にものをつめる」ことでもある。
文字盤の上に乗るてんとう虫の写真
文字盤に施された0.05ミリ程のクリア加工。その上に文字や目盛りが配置されている。デザイナーの「虫の目」は、ただ高精度というだけではなく、「立体的にものをつめる」ことでもある。
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