SEIKO

by Seiko watch design

  • 日本語
  • English
メニュー

Vol.1 虫の視点で、時計をデザインする。 Vol.1 虫の視点で、時計をデザインする。

HomeStoriesVol.1 虫の視点で、時計をデザインする。

文字盤に、あの日の「雪の質感」を表現したかった。

数年前にデザインを担当した、とあるグランドセイコー(GS SBGA211)の話をしたいと思います。この時、文字盤で表現したかったのは古い記憶の中にある、とある雪の質感でした。それは、降って間もないフワフワした新雪ではなく、雪国に住んでいた幼少時代、祖父に連れられて外へ出たときに見た、積雪から時を経て吹き付ける強い風により風紋が刻まれたザラザラした雪でした。

品番SBGA211の正面写真
デザインを手がけた「SBGA211」。ぜんまいを動力源としながらクオーツ式時計と同等の高精度を可能にした機構「スプリングドライブ」搭載。グランドセイコーの中で最も売れているモデルの一つ。
品番SBGA211の正面写真
デザインを手がけた「SBGA211」。ぜんまいを動力源としながらクオーツ式時計と同等の高精度を可能にした機構「スプリングドライブ」搭載。グランドセイコーの中で最も売れているモデルの一つ。

当時はその雪をすごく美しいとは思わなかったけど、大人になるにつれ、そういう表情を持った雪に惹かれるようになり。そして、遠い記憶の中にある、その美しい雪の質感を再現したいと思ったんです。
技術者との試行錯誤を繰り返したものの、なかなか理想的な質感にはならなくて。最終的にたどり着いたのが、リューターという器具で細かく削ることでテクスチャを作り、更に表面に加工を施して雪の質感を作り上げることでした。

風紋が刻まれた雪面の写真
積雪後に強い風にさらされることで、風紋が刻まれた雪面。自然界が生み出したその造形は繊細さと力強さ、そして「時の流れの美しさ」を感じさせる。
風紋が刻まれた雪面の写真
積雪後に強い風にさらされることで、風紋が刻まれた雪面。自然界が生み出したその造形は繊細さと力強さ、そして「時の流れの美しさ」を感じさせる。

その凹凸は、0.04ミリとかそういうレベル。「虫の視点でのデザイン」というテーマに沿って言うならば、「虫の目で見た大雪原」という感じでしょうか。

人間の目で見るとわかりにくいけど、凝視すれば確かにそうなっている。それはもう、「見える」と「見えない」のギリギリの世界かもしれません。でも、その虫の視点による「細部へのこだわり」こそが、きっと身につける人の感性に響くと思うんです。

「+」ボタンを押して写真を拡大していくと、文字盤の表面を拡大して見ることができる。再現された「雪の質感」を、よりリアルに感じてもらえることだろう。

この時計の秒は鮮やかな青色をしています。視認性のためというのもあるのですが、実はもうひとつ、そこに込めた思いがあります。先ほど話した、遠い記憶の中の風紋を帯びた美しい雪。その上空に広がっていた、僕が生まれ育った雪国の青空とイメージを重ね合わせてデザインしました。すべての製品がそうではありませんが、デザイナーとして、時にはこういった「パーソナルな感情」をプロダクトに込めることもあるんですよね。

雪原と青い空の写真
デザインのコンセプトや視認性などの理論とは別に、ときに私たちデザイナーは「個人的な思い」をプロダクトに込める。これもまた、デザインの面白さの一つといえるだろう。
雪原と青い空の写真
デザインのコンセプトや視認性などの理論とは別に、ときに私たちデザイナーは「個人的な思い」をプロダクトに込める。これもまた、デザインの面白さの一つといえるだろう。
このページをシェア