ブレスレットに宿る、無数のグランドセイコーらしさ。
半田:今回は、ブレスレットのデザインがテーマです。ブレスレットのデザインは、その他のパーツのデザインやその「ブランドの世界観」と密接につながっています。今回はその代表として、グランドセイコーとアストロンについてお話したいと思います。

渡邉真生 | Mai Watanabe (写真・左)2018年セイコーウオッチ入社。欧米、アジアを中心とした海外向け商品のデザインを経て、商品企画へ。現在はローラスの商品企画業務を担当。

渡邉真生 | Mai Watanabe (写真・左)2018年セイコーウオッチ入社。欧米、アジアを中心とした海外向け商品のデザインを経て、商品企画へ。現在はローラスの商品企画業務を担当。
渡邉:まずはグランドセイコーですね。ブレスレットのデザインとブランドの世界観が、どのような関係にあるのかを見ていきたいと思います。
半田:グランドセイコーは、腕時計の本質を体現する、伝統的なブランドです。その中でもスタンダードなデザインのこのモデル(品番SBGX263)のブレスレットは、ウオッチで多く用いられる「3列構造」。シンプルで機能性を感じさせる構造です。


グランドセイコーのブレスレットの中には金無垢やブライトチタンを使用したものもある。


渡邉:金属それぞれの持ち味を活かした「筋目」の質感と、その表面を歪みなく磨き上げた「鏡面仕上げ」。その2面の輝きのコンビネーションは、グランドセイコーの大きな個性のひとつですね。
半田:このモデルは全体的に筋目の比率が多いのですが、ブレスレットの角に注目すると、直角ではなく「糸面」という細い鏡面が施されています。この糸面の繊細な輝きは、さりげない華やかさとともに、触り心地の良さも生み出します。
渡邉:また、表面に傷が付いても再研磨が可能な無垢材なので、長く美しく使うことができます。その「永続性」も、ブランドの理念に紐づいています。
半田:着け心地の良さにもこだわりがあります。すべての駒を特殊なピンではめ殺しにすることで、中央の駒がフレキシブルに動くため、ブレスレットが腕にしなやかに巻き付きます。本体駒の側面には穴がないので美観も損ねません。
渡邉:グランドセイコーは本質的なもののよさを感じてもらいたいという考えのもと、それに相応しい素材や質感を追求しているということですね。金やステンレスは素材としては重いのですが、その重厚感もデザインの一部だと言えるでしょう。




同じ3列ブレスレットでも、アストロンの思想で作ると?
半田:ブランドが違えば、そのデザインは大きく変わっていきます。なぜなら、ブランドの「デザイン思想」が違うからです。
渡邉:このアストロン(品番SBXC019)を見てみましょう。アストロンは「革新的」な世界観を持ったブランドなので、そのブレスレットで採用される素材や加工なども、その世界観や思想に寄り添ったものになっています。


3列ブレスレットで、ワンプッシュ三つ折れを採用。


半田:わかりやすいところでは、ブレスレットの素材。アストロンはステンレスよりもチタンやセラミックなど軽量で先進的な素材を使うことが多いです。このような軽量・先進的な素材を選ぶことが、ブランドの方向性と一致していると言えます。
渡邉:ブレスレットには「ダイヤシールド」というセイコー独自の表面加工を施していて、小傷がつきにくくなっています。このあたりは、傷がついても研磨して美しさを取り戻すグランドセイコーとはそもそもの考え方が違いますね。
半田:ブレスレットの裏側を見ると、両サイドの駒が実はつながっていて、ガッチリとした安定感があります。また、グランドセイコーとは違って、駒の側面に穴が空いていることで様々な素材パーツのバリエーション展開をすることができます。
渡邉:中留には長さ調整を容易にする「スマートアジャスター機構」も装備されていて、これも先進性を追求しているアストロンらしさだと思います。
半田:2つのブランドを見比べると、ブレスレットのデザインにもブランドの世界観が宿っていることがわかりますね。




ブレスレットのデザインで、ブランドの「幅」をつくる。
半田:ここからは、ブレスレットの細部のデザインの仕上げで、同じブランドの中でも方向性の幅を持たせることができることを、お話ししたいと思います。
渡邉:たとえば、グランドセイコーの同じ3列構造でも、より「華やか」または「ドレッシー」な印象を強めたいと意図すると、デザインも変化していきます。
半田:このモデル(品番SBGA211)は鏡面仕上げの比率が先程のモデルよりも高いのが特徴です。こうすることで、同じ3列構造でも、筋目と鏡面仕上げのコントラストが強まり、ドレッシーな印象になります。


鏡面の輝きにより、華やかな印象が高められている。


渡邉:一般的には、ブレスレットが多列で構成されているほどドレッシーな傾向になりますよね。たとえばこのモデル(品番SBGK009)は細やかな9列のブレスレットなのでドレス感があります。さらに鏡面と筋目のコントラストが効いているので、端正ながらも華やかさが出ています。


このようにブレスレットの列が多くなるほど、華やかなデザインになる傾向がある。


半田:華やかさを際立たせていく別の手法もあります。このモデル(品番SBGH252)は実は3列構造なのですが、多列のように見える構成にしています。さらに、中央に鏡面仕上げのイエローゴールドを配置することで、装飾的な輝きが引き立っています。


煌びやかさが引き立つデザイン。


渡邉:逆に、鏡面を減らして筋目の面積を増やしていくと、スポーティやモダンな印象になっていきますよね。例えばこのアストロン(品番SBXC003)の場合は、中央に1本太めの鏡面を走らせ、また大胆に面を取ることで力強さを感じるデザインに仕上げています。


真ん中に鏡面を走らせることで、スポーティな印象に仕上がっている。


半田:また別のデザインの幅の作り方として、先進性を強めていく方向もあります。例えば、このアストロン(品番SBXC009)はブレスレットの中央部にセラミックパーツを使用しています。異素材を組み合わせることで、道具にこだわりをもつ人々が好みそうなガジェット感が、打ち出されていると思います。


異なる素材の融合が先進性を感じさせる。


渡邉:このように、一見シンプルに見えるブレスレットですが、実は嗜好に応じて方向性を持った、こだわりのデザインをしています。
半田:そして、そこにはブランドの世界観が宿っているんです。そのことを知っていくと、ウオッチ選びがもっと楽しくなっていくと思います。
渡邉:また、ウオッチバンドが変われば腕時計の印象もガラリと変わるので、季節や用途によってブレスレットやストラップを取り替えてみるのもオススメです。
半田:服装やアクセサリーと、ウオッチバンドの相性まで考えて、コーディネートするのも楽しいものです。まずは、これを機に自分が持っている腕時計のバンドにじっくり目を向けて見るのはどうでしょうか? そこに何か新しい発見があるかもしれません。