ヴァンパイア専用腕時計
とは…？

一般的に、腕時計は朝に着けて出かけ、夜に帰宅したら外すもの。しかし、多様性が進んだ現代社会には、夜間に生活している人だって多くいるはずだ。それでは、夜中にしか腕時計を使わない人といえば…？ そんな人物に思いを巡らすと頭に浮かんできたのは、太陽の日差しを避けるため、昼は棺桶の中で眠り、月夜に嬉々として活動するあの怪物…。そうして、私は「ヴァンパイア」という孤高の存在へと辿りついた。

ヴァンパイアが昼の9時を夜の9時（＝21時）だと勘違いして外出したら、それこそ命取り。昼夜を明確に判別し、彼ら独自の時を刻むためには24時間運針（通常は12時間運針）の採用が必然だった。ダイヤルの表記は「18時から翌朝の6時」のみとし、夜にのみ活動する彼らの生活スタイルに特化している。また、回転ベゼルには、色の濃さがグラデーション状になったカラーストーンがセットされており、実はこれは、前回の吸血からどのくらい日が経過しているかを可視化するもの。「そろそろ血を吸いに行こうか…」という、ヴァンパイアの吸血への渇望を腕時計が暗示する。

• ヴァンパイアが忌み嫌う昼間の時間帯（VIII: 8時～ XVI: 16時）は透明なインクで隠し印刷されている。 週末の丸２日間を棺桶の中で過ごしても動き続ける「3 NIGHTS」駆動。
• ベゼルを回して最も濃い赤のクリスタルガラスを吸血した日にセットしておけば、現在の吸血の枯渇状況がひと目でわかる。 もちろん逆回転防止付き。

デザイン面では、ヴァンパイアの気高さにふさわしい「気品」をまとわせることを、何より強く意識した。ヴァンパイア界の超有名人「ドラキュラ伯爵」のモデルは、一説によると15世紀欧州のとある君主とされている。中世ヨーロッパの世界観を表現すべく、アンティークの懐中時計によく使われた立体的な飾り針を採用し、深みのある、まるで血を思わせる色のダイヤルには趣（おもむき）のあるパターンをあしらった。レザーストラップは異なる素材を組み合わせ、彼らの眷属（けんぞく）であるコウモリの意匠をさりげなく取り入れている。一見すると気品あるジュエリーウオッチのような外観の端々にヴァンパイアのエッセンスを忍ばせ、いつの間にか見るものを魅了してしまう…そんな美しくも妖しいこの腕時計を、現代のヴァンパイアに捧げる。

専門家の声

ヴァンピロロジスト
（ヴァンパイア学者）森口大地さん

ヴァンパイア専用の腕時計？初めて聞いたときは驚いたが、説明を受けてみると、なるほど非常に面白い企画だ。研究者の固い頭では思いもよらないアイデアに満ちている。ヴァンパイアは、もともとは東欧・南欧の民間伝承由来の怪物のひとつでしかなく、我々の知るイメージを得たのは比較的最近のことだ。本来のヴァンパイアには、「映える」特徴――洗練されたスタイル、黒と赤の配色、牙 etc.――があまりない。そこで、この時計では、一般的なイメージをもとにした、デザイナーの考えるヴァンパイア像をうまく落とし込むことで、一つの物語を見事に作りあげている。個人的には、もっと遊び心を出してもいいのでは、と思うが、フォーマルでも通用する奇抜過ぎないデザインは、SEIKOらしい高級感を醸し出している。ヴァンパイアを学問的に定義し、説明することにこだわるなら、このような時計などできやしない。専門家の野暮なコメントなど気にせず、あふれるヴァンパイア「らしさ」を存分に楽しもうではないか！

担当デザイナー

石原 悠

2003年、セイコーインスツル入社。2014年よりプロスペックスやグランドセイコーを担当。2022年、セイコーウオッチに転籍。現在はデザインディレクターとして、アドバンスモデルの開発・デザインを担当。