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Vol.29 時代が変わればデザインも変わる。 セイコー 5スポーツの過去と現在、そして未来。 Vol.29 時代が変わればデザインも変わる。 セイコー 5スポーツの過去と現在、そして未来。

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1960年代〜70年代にかけて当時の若者に大ヒットし、リニューアルした現在も幅広い世代に親しまれているセイコー 5スポーツ。今回はその長い歴史にちなんで、セイコーウオッチを中心に時に関するありとあらゆる歴史が収められた「セイコーミュージアム銀座」で、ウオッチの歴史や時代背景をよく知るミュージアムのスタッフと、セイコー 5スポーツを担当する若手2人が対談。今では考えられないユニークなデザインや、現在のセイコー 5スポーツとの違いに注目しながら、これからのウオッチのあるべき姿を考えます。(2021.12.29)

当時の若者の憧れ。セイコー 5スポーツ

熊谷:本日のテーマはセイコー 5スポーツについてです。が、その前にまずは、セイコーミュージアムへようこそ。お二人はセイコーミュージアムを訪れるのは初めてですか?

菅沼:僕はこれまで三度訪れたことがあります。一度目は入社前の研修。二度目は内定後に家族と一緒に。三度目は入社後の研修で訪れました。

藤本:私は、セイコーミュージアムがまだ東向島にあったときに一度訪れたことがあります。銀座に移転してからは、実はこれが初めてです。

熊谷:セイコーミュージアムは2020年に東向島から銀座に移転していますが、コロナ禍に伴う入場規制で、まだ訪れたことがない人が多いかもしれませんね。本日はセイコー 5スポーツについての話がメインですが、後ほど館内の様子もご案内しますので、ゆっくり楽しんで行ってください。

藤本&菅沼:ありがとうございます!

セイコーミュージアムの外観
2020年、セイコーの創業の地である銀座へと移転したセイコーミュージアム。時と時計に関する数多くの歴史的資料が収められている。
セイコーミュージアムの外観
2020年、セイコーの創業の地である銀座へと移転したセイコーミュージアム。時と時計に関する数多くの歴史的資料が収められている。
熊谷、藤本、菅沼の写真
左から熊谷、藤本、菅沼。長い歴史をもつセイコー 5スポーツがテーマということで、様々な時計の歴史が一堂に会する「セイコーミュージアム銀座」での対談が行なわれた。
熊谷、藤本、菅沼の写真
左から熊谷、藤本、菅沼。長い歴史をもつセイコー 5スポーツがテーマということで、様々な時計の歴史が一堂に会する「セイコーミュージアム銀座」での対談が行なわれた。

熊谷:でははじめに、セイコー 5スポーツの歴史について簡単にお話しします。そもそもこのシリーズのルーツは、1963年に発売した「セイコー スポーツマチック5」にまで遡ります。「5」とは5つの特徴のこと。自動巻き、防水、3時位置のデイ・デイト一体窓表示、4時位置りゅうず、そして耐久性に優れたケースブレスレット、と言われています。

菅沼:曜日と日付が一緒に表示され始めたのも、この頃からなんですね。

熊谷:今でこそスタンダードに感じられるこれらの要素はどれも、当時としては非常に先進的なものでした。そして5年後の1968年、加速するスポーツブームに応えるべく、セイコー 5スポーツが誕生。機能面の進化に加え、ビビットカラーをアクセントとしたスポーティなデザインは、多くの若者に受け入れられ、一世を風靡しました。

1968年に誕生したセイコー 5スポーツの写真
スポーティかつ個性的なデザインは、当時のスポーツブームの追い風も受けながら、瞬く間にアクティブな若者へと受け入れられていった。
1968年に誕生したセイコー 5スポーツの写真
スポーティかつ個性的なデザインは、当時のスポーツブームの追い風も受けながら、瞬く間にアクティブな若者へと受け入れられていった。
セイコーミュージアムの5階フロアの写真
セイコーミュージアムの5階フロア。セイコー 5スポーツの歴史もこのスペースの一角に収められており、その時代を象徴するデザインのウオッチが閲覧できる。
セイコーミュージアムの5階フロアの写真
セイコーミュージアムの5階フロア。セイコー 5スポーツの歴史もこのスペースの一角に収められており、その時代を象徴するデザインのウオッチが閲覧できる。
熊谷の写真
熊谷勝弘|Katsuhiro Kumagai 1980年、第二精工舎(現セイコーインスツル)入社。Pulsar、セイコーブランドを中心とした商品デザインを担当。1989年ミラノ駐在を経て、セイコーブランド商品企画、ライセンスブランドの商品企画及び営業を行う。2012年からセイコーミュージアム勤務、館内説明・ワークショップ・取材対応等を担当。
熊谷の写真
熊谷勝弘|Katsuhiro Kumagai 1980年、第二精工舎(現セイコーインスツル)入社。Pulsar、セイコーブランドを中心とした商品デザインを担当。1989年ミラノ駐在を経て、セイコーブランド商品企画、ライセンスブランドの商品企画及び営業を行う。2012年からセイコーミュージアム勤務、館内説明・ワークショップ・取材対応等を担当。

1960年代から1970年代を象徴する、自由でユニークなデザイン。

熊谷:いま目の前に当時のウオッチが並んでいますが、現代の若者として、お二人はどんな印象を受けますか?

菅沼:全体的に、ケースに金属のカタマリ感というか、厚みのあるものが多いですね。デザインも堂々としていて、潔さを感じます。

熊谷:たしかにそうですね。近年はより軽く、よりコンパクトに、という意識でデザインされているものも多いですが、当時はそんな感覚はあまりなかったのでしょう。むしろ、若者たちはウオッチの存在感や重量感に価値を感じる時代だったのかもしれませんね。

1960年代から1970年代のセイコー 5スポーツの写真
金属のカタマリ感や、ベゼル表示板・ダイヤルの個性的な配色により、それぞれのウオッチが独特の存在感を放っている。
1960年代から1970年代のセイコー 5スポーツの写真
金属のカタマリ感や、ベゼル表示板・ダイヤルの個性的な配色により、それぞれのウオッチが独特の存在感を放っている。
展示されているセイコー 5スポーツの写真
展示されているセイコー 5スポーツのモデル。ボリューム感のあるケースデザインと大胆なカラーリングが特徴のこのモデルは、ファンの間で広く知られている。
展示されているセイコー 5スポーツの写真
展示されているセイコー 5スポーツのモデル。ボリューム感のあるケースデザインと大胆なカラーリングが特徴のこのモデルは、ファンの間で広く知られている。
菅沼の写真
菅沼佑哉|Yuya Suganuma 2021年、セイコーウオッチ入社。モノからコトの時代にあえてウオッチでモノの魅力を伝えたいと考え入社を志望。セイコー 5スポーツチームに配属された新人デザイナー。
菅沼の写真
菅沼佑哉|Yuya Suganuma 2021年、セイコーウオッチ入社。モノからコトの時代にあえてウオッチでモノの魅力を伝えたいと考え入社を志望。セイコー 5スポーツチームに配属された新人デザイナー。

藤本:配色もとても自由で、組み合わせがユニークですね。初期の1968年発売のウオッチは今の時代にあっても違和感はなさそうですが、そこから1970年代にかけて配色やグラフィックに意外性のあるものが増えていっている印象です。

熊谷:若者がファッションに目を向け始めたのも1960年代頃からで、1970年代のアイビールックやサイケなどの流行がデザインにも影響している気がします。かなり挑戦的なカラーやデザインが多いですよね。

藤本:特にこのチェッカー模様のウオッチはとても気になります。いちばん目に入る部分に、こんな大胆に装飾を施すのかと…かなり驚きですが、なんとも言えない魅力を感じます。

展示品を指さし解説する熊谷とそれを聞く藤本と菅沼
熊谷の解説に熱心に耳を傾ける二人。現代にはない発想でデザインされたウオッチから、今の時代にも通用するデザインのヒントを探る。
展示品を指さし解説する熊谷とそれを聞く藤本と菅沼
熊谷の解説に熱心に耳を傾ける二人。現代にはない発想でデザインされたウオッチから、今の時代にも通用するデザインのヒントを探る。
1968年と1970年のカタログカットの写真
1968年(左)と1970年(右)のカタログカットの一部。今もなお愛され続けるシリーズの核となる魅力が、ここから形成されていった。
1968年と1970年のカタログカットの写真
1968年(左)と1970年(右)のカタログカットの一部。今もなお愛され続けるシリーズの核となる魅力が、ここから形成されていった。
藤本の写真
藤本美緒|Mio Fujimoto 2019年、セイコーウオッチ入社。クレドールFUGAKUに魅せられて入社を志望。2021年からセイコー 5スポーツの商品企画メンバーとなった若手企画者。
藤本の写真
藤本美緒|Mio Fujimoto 2019年、セイコーウオッチ入社。クレドールFUGAKUに魅せられて入社を志望。2021年からセイコー 5スポーツの商品企画メンバーとなった若手企画者。

今とは違った価値観のデザイン。だからこそ魅力的。

熊谷:他にも気になったウオッチはありますか?

菅沼:まず気になったのはこのウオッチ。幅の広いベゼル表示板と存在感のあるケースのかんが目を引きました。全体に無骨な印象があるんですが、ダイヤルリングの金属光沢やガラスのカーブ面など、デザイナーのこだわりが随所に感じられます。

藤本:ダイヤルインデックスをあえて帯状にデザインしているのもユニークですよね。黒色のダイヤルに映える赤色の秒は、車やバイクのメーターを想起させるアクティブでスポーティな印象があり、当時の若者の憧れとなる「カッコよさ」が体現されているように感じます。

菅沼:先輩から聞いたのですが、このモデルは初代の仮面ライダーの劇中で、主人公が着用していたということでもファンの間では知られているそうです。当時のヒーローにもマッチした、まさにかっこいい腕時計だったのだと思います。

初代の仮面ライダーの劇中で主人公が着用していたと言われるモデルの写真
赤い秒針やダイヤル外周の帯状の目盛りは、当時の若者の憧れである車やバイクのメーターを連想させ、60年代の若者が魅了されたというのにもうなずける。
初代の仮面ライダーの劇中で主人公が着用していたと言われるモデルの写真
赤い秒針やダイヤル外周の帯状の目盛りは、当時の若者の憧れである車やバイクのメーターを連想させ、60年代の若者が魅了されたというのにもうなずける。
1960年代のセイコー 5スポーツを持つ手の写真
近年のウオッチデザインにみられる「より軽やかに」「よりすっきりと」という傾向とは真逆のつくり。ここにも現代との価値観の違いが見てとれる。
1960年代のセイコー 5スポーツを持つ手の写真
近年のウオッチデザインにみられる「より軽やかに」「よりすっきりと」という傾向とは真逆のつくり。ここにも現代との価値観の違いが見てとれる。

菅沼:それから、この黄色ダイヤルのウオッチはカラーリングとそのデザインにも驚きました。当時流行だったバングルのようなブレスレットもすごく新鮮です。現代にはない魅力を感じますね。

藤本:インデックスの丸い形と厚みもとても特徴的ですよね。確かファンの間では、その見た目から「すしロール」と呼ばれているようです。まさに、海苔巻きのよう。

熊谷:これは今ではできないデザインですね。ウオッチの品質基準が今とは違うという理由もありますが、時代の潮流もあり、現代の発想では考えつかない自由なモデルが多く誕生しています。だからこそ、ニックネームが付けられたり、世界中のファンの間で根強い人気があるのでしょう。

熊谷:スポーツウオッチというジャンルが広がりはじめた時期ですから、機能としてだけなく当時のデザイナーがかっこいいと思うものを追求しているんだと思います。自由な発想の遊び心が感じられますよね。

黄色ダイヤルのセイコー 5スポーツの写真
ブレスレット、ケースダイヤルインデックス…どの部分を切り取ってみてもデザイナーの遊び心が感じられ、当時のデザインの自由度の高さがうかがえる。
黄色ダイヤルのセイコー 5スポーツの写真
ブレスレット、ケースダイヤルインデックス…どの部分を切り取ってみてもデザイナーの遊び心が感じられ、当時のデザインの自由度の高さがうかがえる。
黄色ダイヤルのセイコー 5スポーツを持つ手の写真
アグレッシブで目を引くデザイン。1960年代は、そこに大きな価値を感じる若者が多かったということだろうか。
黄色ダイヤルのセイコー 5スポーツを持つ手の写真
アグレッシブで目を引くデザイン。1960年代は、そこに大きな価値を感じる若者が多かったということだろうか。

セイコー 5スポーツのこれまでと、これから。

藤本:今日は1960~70年代にかけてのセイコー 5スポーツに注目してみて、現在との違いだけでなく、その共通点も改めて再確認することができました。それは「若者に寄り添い、力を与える」ということです。時代が変わってもその価値観は同じだということがわかり、うれしく思いました。

菅沼:若者に寄り添うという点では、デザインのバリエーションでさまざまな若者のニーズに応えようとしている点も、今に通じる部分があると感じました。ただ、昔は色や形を大胆に変化させ個性を持たせていたものが、今は同じベースの中で構成する要素を変化させ、多様化する価値観に対応しているように思います。一人の人が何者にでも変化できるような、そんな現代を象徴しているのではないでしょうか。

SBSA051、SBSA025、SBSA053の写真
2020年発売のセイコー 5スポーツ(左からSBSA051、SBSA025、SBSA053)。大事なのは、その時代を生きる人々に寄り添うことであり、デザインは変われど、その思想は今後も変わらず続いていくだろう。
2020年発売のセイコー 5スポーツ(左からSBSA051、SBSA025、SBSA053)。大事なのは、その時代を生きる人々に寄り添うことであり、デザインは変われど、その思想は今後も変わらず続いていくだろう。

熊谷:現代は人々の価値観も多様化していて「これが求められている」と一概にはいえないのも難しいところですね。そんな時代を生きるお二人にとって、これからのセイコー 5スポーツは、どうなっていくべきだと思いますか?

藤本:私は多様化する現代だからこそ軸をしっかり持って、「若者に寄り添い、力を与える」という姿勢を貫き続けることが大切だと感じます。

熊谷:なるほど。それはどういうことでしょう?

藤本:現在のセイコー 5スポーツの中心となるモデルのデザインベースは、「SKX」と呼ばれる、ファンから長年愛されたダイバーズウオッチです。王道スタイルとも呼べるベースがあるから、多様な価値観の「Show your style」という表現ができるんです。軸があるからこそ、自由であり続けられると思います。

藤本:現在は、5Stylesと定義したレギュラーモデルの他に、若い世代のアーティストやブランドとのコラボレーションで若者に寄り添った多様なモデルを発表しています。良い反響をいただく度にファンの皆さんの力になっているのかなと感じますし、これからもそんな相棒となれる1本を作っていきたいと思っています。

菅沼:僕は機械式腕時計の存在と良さを知るきっかけがもっと必要だと思っています。そもそも自分と同じ20代の人たちは、クオーツとか機械式とかの違いすらあまり意識していないと思います。恥ずかしながら、僕もセイコーウオッチに入社するまであまり意識したことはありませんでした。

藤本:私もそうだったかも。

菅沼:けれど機械式腕時計を使うようになってからは、手でりゅうずを巻くという行為自体が楽しかったり、電子部品を使わずにぜんまいを巻き上げた力だけで時を刻んでいる姿が健気で可愛らしく思えたんです。そんな風に感情移入できることも知って欲しいし、長く愛されるために重要なことだと思います。

熊谷:セイコーの機械式腕時計には技術による信頼性と歴史があります。それらを土台にして、今の世代に寄り添ったアピールをしていく必要がありそうですね。2019年にリニューアルされたセイコー 5スポーツが、これから若者にとってどのような存在になっていくのか。セイコーミュージアムのスタッフとして、そしていちファンとして、とても楽しみです。

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