女は男の時計を見ている。デザイナーは、さらに見ている。
佐藤:僕たちは必ずしも、「モテる」「モテない」という基準でウオッチをデザインしてるわけじゃないけれど。
半田:でも、ウオッチってその人を知る手がかりになるから、ウオッチと「モテ」は切っても切れない関係だと言えますよね。
半田:なるほど。「今はそれじゃなくても…」と、思う感じ、わかります。場に合ってない感じがするんですよね。
佐藤:街中で本格的なダイバーズウオッチをつけている男の人を見て僕が思うのは、「あー、本当にこの人はダイバーズウオッチが好きなんだな」ってことくらい(笑)。女性視点の方が、男性がつけるウオッチにいろんな意味でシビアなんじゃないかな?
半田:そうかもしれません。女性は、男性がつけているウオッチのことを、けっこう見てる。私は職業柄、街中でもついつい見ちゃいます。中には、ちょっと惜しいなあと思うこともありますね。
佐藤:確かに、長いウレタンバンドを装備した本格的なダイバーズウオッチは、特にシャツとの相性は悪いですね。袖口に納まらないし、余ったバンドが手首からビローンと垂れ下がって、かっこ悪いでしょ。と言いつつ、「そんなこと気にしないくらい、それが気に入っているんだなと思うと、悪い気はしないですけど(笑)。
半田:最近は、ダイバーズウオッチのデザイン様式を借りつつ、タウンユース向けのデザインも提案してますよね。
佐藤:そうですね。たとえば、このプロスペックス(品番:SBDL035)は、ウレタンではなくメタル製のバンドで、サイズもコンパクトに作られてる。本気のダイバーズウオッチではなく、あくまでダイバーズウオッチの様式を借りたスポーティーウオッチとして、街で着けていても違和感がないと思うんです。もっとカジュアルに楽しむなら、ゴールドのケースにナイロンバンドのタイプ(品番:SBDJ028)もタウンユースに似合っていると思います。
半田:アンケートに答えてくれた女性も、こういう時計なら、むしろ好印象かもしれませんね。
佐藤:それから、ひとくちに街といっても、シチュエーションによりますね。たとえば、SUVの車を運転している男の腕に、ダイバーズウオッチがチラリと見えるのは、スポーティな印象で全然アリです。ただ、仕事でスーツスタイルの服装だとしたら大振りのダイバーズウオッチはNGでしょうね。
大人の男が、3つの腕時計を持つとしたら?
佐藤:アンケートの回答に「休日に、私服に合ったカジュアルな時計をしている男性は好印象!」とあるけど、カジュアルに限らず、女性目線では、どういうウオッチをしていたら、好印象って思いますか?
半田:この一本!というのは難しいですね。TPOや気分で使い分けてほしいかな。私の理想は5本だけど(笑)。せめて3本は違うタイプを持っていてほしいですね。たとえば、1本目はこの白琺瑯ダイヤルのプレザージュ(品番:SARW035)。これは、グラフィックもダイヤルも落ち着いた柔らかな印象があるので、ミーティングでも調和を取りたい時とか、デスクワークの仕事用。それとは別に、同じく仕事用だけど「ここぞ!」という場面でつけるグランドセイコー(品番:SBGE209)を2本目に持つ。ウオッチの針やインデックスの強さが気持ちを上げてくれるし、デキる感を醸しだせそう。
佐藤:3本のうち、仕事用が2本ということかな?
半田:ウオッチを着けるのは、オフの時間より仕事の時間のほうが長いですからね。オフィスでも女性って見てると思いますし、気分や場面で使い分ける余裕がある、って好印象だと思います。そして3本目に、これは私の好みが入ってますが、オフ用にこういう遊び心があるウオッチ(品番:SSC667P9)があるとちょっとギャップがあって良いですね。
「似合う時計」を知るには、どうすればいいのか?
半田:これもわかります(笑)。 似合っていることは大事ですね。逆に言うと、男性が「つけたいと思うウオッチ」と、「その人が本当に似合うウオッチ」は、違うことってありますよね。たとえばサイズ感ひとつとっても。
佐藤:洋服屋さんとは違って、時計売り場には、全身を映す鏡は置いていないことが多いけど、僕は、時計売り場にも、大きな鏡があるべきだと思っていて。ウオッチのデザインだけを見るんじゃなくて、そのウオッチを身につけた自分がどう見えるか?を意識して、選んでほしいですね。
半田:男性に比べると、女性はウオッチを買う時も、それを身につけた自分の全体像を意識している気がします。だから、男性でその意識を持ってコーディネートができる人は好印象なんじゃないでしょうか。
佐藤:そうですね。それと、他のアクセサリーとのマッチ感も大切ですね。僕は普段から金の結婚指輪をしているから、このゴールドのグランドセイコー(品番:SBGW238)と相性がすごくいいんです。それから、眼鏡も。眼鏡は男性が身につける数少ないアイテムの一つだから、ウオッチとの相性も考えてコーディネイトしてほしいですね。ちなみに僕は好きな形の眼鏡の色違いを、ウオッチに合わせて使い分けています。
半田:似合う、という点では、私は海外でも日本人との違いが気になってよく観察するんです。日本人と欧米人では腕の太さが違うから、似合うウオッチのサイズやデザインも違いますね。特徴的なのは、アメリカ人の男性が好むデザインかな。これは傾向の中の1つなんですが、このCoutura(品番:SSC376P9)のように、ジュエリーのようなキラッと感があって、ケースにつながるバンドの部分が広い、首太のマッチョな印象のものが好まれるし、それが彼らの腕やファッションにはよく似合うんです。一方、日本人の男性には、例えばこのアストロン(品番:SBXC003)のように、質の良さは感じつつもすっきりとした印象で、適度なボリュームがあるウオッチが似合うかもしれませんね。
佐藤:ウオッチって、自分の個性を感じさせるのにちょうどいいアイテムだから、どう見せたいかを意識して選ばないともったいないと思います。私たちデザイナーはいつもデザインをするときに、着ける場面を想定して、買ってくれるお客さんがイメージしやすいような提案をしているんです。「こんな時にはこんなデザインのウオッチが素敵に見えますよ」って。ウオッチそのもののデザインだけじゃなく、使うシーンも含めてのトータルデザインも大切にしてるので、そこにも注目して選んでほしいですね。
半田:そうですね。それに私たちって、「似合うウオッチを見抜く能力」が普通の人より高いと思うんです。私の場合、例えば、誰かにウオッチを贈る時には、似合うものはもう案外持っていたりするので、ちょっとハズして、「まだ持っていなさそうな、でも意外と似合うウオッチ」を狙ってプレゼントすることもありますよ。
佐藤:なるほど。上級ですね(笑)。それはウオッチデザイナーならではの先を行った発想ですね(笑)。