若手デザイナー2人、ミラノのデザインの祭典へ。
郡山:「ミラノデザインウィーク」では毎年、さまざまな企業やデザイナーによる展示が行われているのですが、セイコーウオッチが参加したのは去年が初めてで…。
吉田:そうなんです。「グランドセイコー」の魅力発信を目的として2018年に初出展、今年も「グランドセイコー」ブランドとして参加しました。そして、デザイン部のプロジェクトメンバーとして私たち2人がミラノを訪れることになりました。
郡山:ミラノは学生時代、プライベートで訪れたことがあります。相変わらずオシャレな街という印象でしたね。でも、ピンクやレッドのジャケットとか、そういう分かりやすい派手さではなく、意外とベーシックで落ち着いた色が基調なんですよね。
吉田:僕はミラノは初めてでした。確かに、印象としては「落ち着きのあるセンスがいい街」という感じ。パリの華やかさに比べると、石造りの建物のモノトーンな色調なんかは、どこか日本に通じるシックなかっこよさも感じました。
郡山:そんなミラノの国際的なデザインの祭典で、自社の展示はもちろん、他の企業の展示にも数多く触れました。大きな刺激を受けたし、学んだことも多かったと思います。
吉田:今回のグランドセイコーの展示の全体テーマは「THE NATURE OF TIME」。この「NATURE」には、「自然」だけでなく「本質」という意味もあります。セイコー独自の機構「スプリングドライブ」に焦点を当てて、「移ろいゆく時と、その永続性」や「一人ひとりが抱く独自の時間」を可視化する。それが全体のコンセプトでした。
郡山:その「THE NATURE OF TIME」というテーマをもとに、「FLUX」という作品と「movement」という作品を展示しました。前者はコンテンポラリーデザインスタジオのwe+さんが中心となって制作した作品。後者がCGディレクターの阿部伸吾さんが中心となって制作した作品です。
吉田:グランドセイコーの世界観を示す上で、どのような場所で作品を展示するのかも非常に重要です。検討した結果、今回はモンテナポレオーネ通りに近い「ポルディ・ペッツォーリ美術館」に決まりました。これはまったくの偶然ですが、この美術館が公開されたのが1881年で、セイコーの創業と同じ年なんです。
郡山:しかも、この美術館は、時計のコレクションがとても豊富で。古い日時計とか、かなりの数が所蔵されていました。休憩時間には、展示されている時計たちを眺めることもできました。
実物を目にしたからこそ、感じられたこと。
吉田:ミラノへ向かう前に、もちろん、どんな作品を展示するかは把握していましたが、実物ではなく模型を見ていただけだったので、いざ現地で実物を目の当たりにすると、圧倒的な凄みがありました。壮大な宇宙空間に身を委ねているような気分でしたね。
郡山:確かに。現地で実物を目にすることで、改めて気付かされることもが多かったです。
吉田:「FLUX」という作品はインスタレーションとオブジェの2つに分かれています。インスタレーションのほうは、ゆったりと動く発光流体を使って、その水面に生まれる絶妙な光の移ろいで時の流れを感じさせる作品です。その美しい光の動きや質感は、映像では伝わりきらないかもしれません。
郡山:写真や映像では分からない「現場だけの空気感」は確かにありますね。液体を使った作品だったからかもしれませんが、展示会場に足を踏み入れた瞬間に私は「ものすごく空気が澄み渡っている」と思ったんです。神聖で荘厳な雰囲気を感じました。
吉田:スクリーンに映し出される、時間が滝のように降り注いでいる様な映像は、日本画のような印象も受けました。
郡山:隣の部屋に展示されていたオブジェは、スプリングドライブの部品と発光粉末を、有機的なフォルムのガラスオブジェに収めたものです。
吉田:本当に素敵な作品で、実物を見た瞬間に「あ、これ欲しい」と思っちゃいました(笑)。
郡山:ガラスによって中の部品が拡大されて見えるんですよね。インスタレーションと違って、こちらは手にとって眺めることができる作品なんです。「FLUX」のインスタレーションもオブジェも、考え方は共通しているけれど作品と観客の距離感が大きく違いますね。
吉田:CGディレクターの阿部伸吾さんの映像作品「movement」には、日本の街並みが巧みに取り入れられています。海外の人が見たら、その日本らしさが面白いだろうし、日本人の自分が見ても今までに見たことのない美しい映像の見せ方と相まって新鮮でした。
郡山:映像に使われている街並みは、最後は銀座の風景だけど、途中に入っているのは自分たちが普段生活しているごく普通の日常的な日本の風景なんですよね。それが理由なのかもしれませんが、私はどこか親しみがある映像に感じられて、長い時間見入ってしまいました。