さらに、デザイナーの視点で商品を見つめると。
——それぞれの時計について。デザイナーの視点で見て、他に思うところ。
文珠川:「TUNA-CAN」と呼ばれている外胴プロテクターつきダイバーズは、すごくシンプルな形状。子どもに「腕時計を書いてごらん」というと、ベルトに丸が付いている絵を書きますよね。つまり、腕時計のアイコンのような印象を持っているんです。
岸野:セイコーに入社した男性デザイナーの多くが、まず欲しくなる時計です。実際に僕も先輩が付けているのを見て、一目惚れして自分でもすぐに手に入れました(笑)。無骨で単純にかっこいい。計器や道具のような存在感が男心を鷲掴みにします。


文珠川:「MONSTER」と呼ばれているこのモデルの回転ベゼルの凹凸は、デザインでもあり、機能でもある。実際にそのベゼルが「回しやすいか」はもちろん、「回しやすそうか」も重要です。そう思いながら回すと、「回しやすい」と脳が判断する。僕たちは、そういうことも考えてデザインします。
異名を持つ時計には、そのデザインの方向性を保ちつつ、派生系ともいえる製品が世に送り出されているものも多くあります。
岸野:1975年に生まれた、自動巻メカニカルムーブメント6159を搭載した飽和潜水仕様600m防水ダイバーズを起点とする外胴プロテクターつきダイバーズの流れは、今でも続いていますね。時代とともに素材や構造が少しずつ変化しているけれど、大枠は変わらない。「MONSTER」と呼ばれているモデルも、その派生系が多いですね。そして、「オレンジモンスター」とか、「フランケンモンスター」とか…、色々なニックネームで呼ばれ親しまれているみたいです。



注)「 」内は全てニックネーム

注)「 」内は全てニックネーム
文珠川:自分がデザインを担当したものでは、「ベビーツナ」と呼ばれているものがあって。これ、ダイヤルやベゼルのディテールは「MONSTER」と呼ばれているモデルをベースにしているけれど、その外側は分厚い“外胴”に覆われているんです。平たく言えば、ことなる異名を持つ2つの時計の「ハーフ」のようなもの。それぞれの時計の「いいとこ取り」をしたい、という思いでデザインしました。このデザインは思った以上に好評でした(笑)。


個性があるデザインだからこそ、愛着が生まれる。
文珠川:セイコーでニックネームが付けられている時計は、ダイバーズウオッチが多い。これは、頑丈に作られていて、なかなか壊れないからというのもあると思います。長く付き合うことができるから、人生のパートナーのような存在。だから、あだ名が付けられやすいのだと思います。
岸野:「こういう名前で呼ばれる時計を作ろう」という発想はないけど、デザインした時計が結果としてニックネームで呼ばれることは嬉しいことです。人間でも、何らかの個性があるからこそ、ニックネームがつけられます。無個性だとニックネームがつきにくい。さらにいうと、ニックネームをつけられるのは、その個性に愛着を持たれているからだとも思います。
文珠川:結果的に異名がつくかはさておき、使う人の傍にいて面白さや感動をあたえられる、そんな個性を持った「愛されるデザイン」を生み出していきたいですね。

