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異名を持つ時計たち。その2|by Seiko watch design Vol.11

「SUMO」と呼ばれるウオッチ。その異名の由来は?

岸野:前回の「異名を持つ時計たち。」で、私と文珠川が話した時には、「TUNA-CAN」「MONSTER」「SAMURAI」「TURTLE」という異名で呼ばれているウオッチを紹介しました。

松榮:異名を持つウオッチは、まだまだ他にもあるようです。たとえば、「SUMO」と呼ばれている、2007年発売のダイバーズウオッチがあります。

セイコーのダイバーズウオッチと、日本を象徴する文化である「SUMO」。その二つには、果たしてどのような共通点があるのだろうか?

松榮:これは確かに、全体的にどっしりとした雰囲気で、大相撲の「力士」のイメージが浮かぶのもわかる気がします。

岸野:ええ。でも実はこれ、正面から撮られた写真の印象とは違っていて。実物を手に取って眺めると、そこまで重量感のあるウオッチでもないんですよね。力士のタイプでいうと、体重の重い「あんこ型」ではなく、筋肉質な「そっぷ型」という感じ。

松榮:あらためてじっくり観察すると、引き締まったシャープさを持ち合わせた造形ですよね。せり上がった回転ベゼルと、幅広くしっかりとしたベゼル表示板も特徴的です。

力士の体型を表現する「あんこ型」と「そっぷ型」。角度をつけて見ると、その時計は「そっぷ型」という印象を受ける。

岸野:「SUMO」という競技名がニックネームとして付けられたことが気になりますね。「SAMURAI」や「SHOGUN」は人物に対する呼称だから、例えば、「RIKISHI」や「YOKOZUNA」になっても不思議はないのですが。

松榮:日本の方が名前を付けたのなら、もしかしたら人物を表す言葉になったかもしれませんね。あくまで想像ですが、「SUMO」と名前をつけたのは、外国の方ではないでしょうか? 「SAMURAI」など日本的なニックネームのウオッチがすでにあることを踏まえつつ、「ベゼル表示板の文字の太さ」や「肉厚なラグ」を見て、外国の方が連想する日本語として「これはまるでSUMOの様だ!」となったのではないかと思います。

松榮:以前、このニックネームの由来について「12時の略字が大銀杏っぽいからSUMOなのでは?」という意見をきいたことがあります。確かに言われてみると段々とそう見えてきますね。(笑)
これ以外にも、回転ベゼルの部分に焦点を当てて見ると、どことなく土俵を感じさせる造形になっていると思いませんか?

「12時の位置にある略字」と力士の頭にある「大銀杏」の比較。これはデザイナーの意図によるものか、はたまた偶然の産物か?

岸野:さっき話していた、「せり上がった回転ベゼル」の造形部分ですね。土台としてしっかりとした回転ベゼルと、ベゼル表示板やガラスとの造形バランスに力強さを感じます。実際の土俵も、盛り上がった土台の上に作られているから、このウオッチに共通のイメージを持ったと想像できますね。回転ベゼルの細かいローレットが、土俵を囲む勝負俵に見えなくもない。そう考えると、「YOKOZUNA」や「RIKISHI」ではなく、競技名の「SUMO」が異名になったことは理解できます。

松榮:いろいろ話しているうちに、回転ベゼル部分がますます「土俵」に見えてきました。このウオッチをデザインした先輩デザイナーは、「土俵でも無ければ、SUMOでもない!」と否定するかもしれませんが。
ですが、ウオッチでも他の物でも、愛用している品にニックネームが付いていると、愛着が湧きやすいですよね。

斜俯瞰から見た「SUMO」と、同じく斜俯瞰から見た「土俵」。こちらも、やはり「似ている」と言わざるを得ないのではないか?

岸野:改めてSUMOのデザインを眺めると、迫力がありながらも重厚すぎない、優れたデザインだと思います。ベゼル表示板の文字が極太である一方、回転ベゼルの造形を逆テーパーにすることで、視覚的な軽快さを持ち合わせています。ケースは鏡面の斜面やヘアラインなどの仕上げがうまく活かされていて、立体的な面構成のバランスが絶妙。近くで見ると、仕上げのクオリティが非常に高いことが分かります。その「デザインと品質の良さ」に、外国の人たちが惹きつけられた部分もあるかと。

松榮:ウオッチとしての「迫力と繊細さのバランス」も大事になってくると思います。実際、このSUMOは発売から10年以上経つ今でも、根強い人気を誇っています。

正面写真の力強い印象とは一線を画して、ケースの造形や美しい仕上げからは、デザインの細部へのこだわりが感じられる。

「SHOGUN」の異名の由来を(勝手に)分析してみる。

岸野:ユーザーたちの間で「SHOGUN」という異名で呼ばれているのが、2008年の12月に発売されたこのダイバーズウオッチ(SBDC007)です。これも「外国からの目線で見た日本」といった印象を受ける異名ですね。眺めてみると、なるほど、確かにどことなく「将軍っぽさ」を感じるデザインです。

松榮:金属の硬質なイメージで、回転ベゼルのローレット部分の切り欠きや、ベゼル表示板の尖った目盛など、デザインに「甲冑らしい」要素がありますね。おそらく、その見た目が「SHOGUN」という名の由来じゃないかと。

「SHOGUN」と呼ばれる時計のデザインからは、確かに「将軍」が身につける甲冑や兜などに通じるエレメントを感じる。

岸野:あくまで想像ですが、「異名を付けたのは外国の方では?」という仮説から勝手に想像を広げていくと、「SHOGUN」と名付けた人は、実際にはこの時計を手にしていないような気がします。確かに造形は鎧や兜っぽいのですが、実はケース材質がチタンなので、実物を手にしてみるとかなり軽いんです。

松榮:見た目の印象に対して、甲冑のような「ずっしり感」は無いですよね。実際に装着していたら、その軽さから、「NINJA」や「SHINOBI」などのニックネームで呼ばれていた可能性があったかもしれませんね。

岸野:実際に手に取ってみると、新たな魅力や気が付かなかった部分の発見に驚くことはウオッチではよくあります。見た目の印象では重厚感がありますので、重さも想像された上で「甲冑⇒将軍っぽい」となり、「SHOGUN」と名付けられたのだとしたら。それはそれで、なかなか興味深い話ですね。

重厚感のある見た目とは違い「SHOGUN」の重量は113グラム。これは、Mサイズの卵2つほどの重さである。

「SUMO」と「SHOGUN」と「SAMURAI」のデザインを比較。

岸野:「SUMO」と「SHOGUN」を比較してみると、一見似ているように感じられるかもしれないけど、造形の考え方が少し違いますね。SUMOは「大きな一つの流れ」の中で曲線的・肉感的に全体を構成している。SHOGUNはコントラストをつけて「面」で全体を構成しようとしている。肉体で戦う相撲と、鎧に身を包んだ将軍というイメージを照らし合わせると、それぞれの異名はある意味、的を射ていますよね。

いっけん、似ているようにも思える二つの時計。しかし、曲線的な印象の「SUMO」に対して、「SHOGUN」は直線的な造形なのだ。

岸野:そして次は、前回に異名を分析した「SAMURAI」という時計と「SHOGUN」を比較してみます。どちらもケースの面構成が特徴的です。スパッ!スパッ!と2回ほど切り落とした大胆な面構成なのが「SAMURAI」ですが、「SHOGUN」はさらに角の部分を削いだ「面取り」がされていて、美しい鏡面を作り出している。装飾的にも少し手が込んでいるんです。

松榮:そのことで、実際よりもケースを視覚的に薄く感じさせる効果があるんですよね。「SAMURAI」と比べて、「SHOGUN」の方がより一層精悍な顔立ちになっています。

「SAMURAI」と「SHOGUN」の比較。同じ方向性のデザインではあるが、「面取り」で美しい鏡面を生み出している「SHOGUN」のほうが、高級感のある時計だと言えるかもしれない。

岸野:一般的にウオッチのブレスレットは、コマのつなぎ形状が直線形の場合が多いのですが、「SHOGUN」の場合は「矢羽形状」といった、あえてつなぎが斜めになっている形にしています。その角度のつけ方も、どこか武器や防具を思わせますね。

松榮:先程引き合いに出した、回転ベゼルのローレットの切り欠きもやはり特徴的ですよね。分かりやすく誇張したトゲトゲしい造形は、どこかしら将軍の兜に施された装飾物に近い印象を受けます。

岸野:歴戦の甲冑に刻まれた、無数の傷のようにも見えますね。

松榮:「SHOGUN」は、その名に相応しく、ムーブメントも「SAMURAI」の上位のものを積んでいます。装飾的にも精度的にもより上位だと位置付けられるので、「SAMURAI」たちの上に立つ人物を「SHOGUN」だととらえると、このニックネームはまさに言いえて妙だと思います。

「ブレスレット」や「回転ベゼル」からも、将軍が身につける武器や防具を連想させる形状や素材感が感じられる。

松榮:異名が面白いのは、我々が知らない間に予想以上に市民権を得ていて、セイコーファンではなくとも、それぞれが何と呼ばれているかを知って下さっていることです。

岸野:セイコーのウオッチは特に「異名」を持つものが多い気がします。それは、セイコーがブランドの長い歴史の中で、多種多様なウオッチデザインを生み出し、発展させてきたからだと思います。今後もまた思いもよらない異名を持ち、長く愛されるウオッチが現れるかもしれませんね。

セイコーの時計に新しい「異名」がつけられているかもしれない。ふたりのウオッチデザインの追求と、そこに与えられた異名の分析はつづく!?