
(中)石井菜月 | Natsuki Ishii 2019年、セイコーウオッチ入社。Seiko Seedでは「LUKIA Garden」を担当。現在はセイコー ルキアのデザインを担当している。
(右)松本卓也|Takuya Matsumoto 2010年、セイコーウオッチ入社。Seiko Seedでは「駆動せよ!超戦士キングセイコー」を担当。現在はキングセイコーを中心にデザインを担当している。

(中)石井菜月 | Natsuki Ishii 2019年、セイコーウオッチ入社。Seiko Seedでは「LUKIA Garden」を担当。現在はセイコー ルキアのデザインを担当している。
(右)松本卓也|Takuya Matsumoto 2010年、セイコーウオッチ入社。Seiko Seedでは「駆動せよ!超戦士キングセイコー」を担当。現在はキングセイコーを中心にデザインを担当している。
複雑なしくみを、かわいく楽しく。#テンちゃんのひげぜんまい
松本:Seiko Seed、いったん原宿での活動は幕を閉じたわけですけど。みなさんどうでした?
松榮:若者カルチャーの空気が漂う独特な場所で、腕時計の価値や魅力をどう伝えるかというのはけっこう難しかったですよね。
石井:それでいうと、Seiko Seedの活動がはじまって3回目に開かれた展示「テンちゃんのひげぜんまい」は、原宿のもつ空気とも相性のいい展示だった気がしています。


松本:この展示企画のリーダーは松榮さんでしたよね?
松榮:はい。まさにあの展示は原宿という立地を意識した企画でした。ターゲットも、Z世代を中心に原宿を訪れる家族連れの方や海外の方だったり。そういった方々に対して、機械式腕時計の魅力を親しみやすく伝えられるコンテンツを考えよう、というところからスタートしました。
松本:そういう経緯だったんですね。


松榮:それでまず「Kawaii」という、世界共通言語にもなりつつある原宿ならではのキーワードを紐解いていき、じゃあキャラクターコンテンツを活かした展示はどうだろうかと考えました。結果的に、イラストレーターのしんたにともこさんに作画いただいたキャラクターたちをベースとした物語仕立ての展示にすることで、複雑な機械式腕時計のしくみを幅広い層にわかりやすく伝えることができたと思います。
松榮:他にもわかりやすく伝える手段として、例えば「なぜ機械式腕時計は正確に時を刻めるのか」ということを、実際に手を動かすことで体感できる模型もつくったりしたんですよ。
石井:この模型、わかりやすかったです。


松本:ワークショップを行ったのも、たしかテンちゃんの展示が最初でしたよね。
松榮:そうですね。幅広い層に楽しく知ってもらうのがねらいで開催したワークショップは、これ以降の展示でも恒例化しました。親子で参加してくれた方が多かったですし、子どもたちにも好評でしたね。
松榮:展示の物語では、メンテナンスによって、ひとつの機械式腕時計を世代を超えて受け継いでいけることも伝えています。なので親子で楽しんでいただけたのはうれしかったですね。


眺めるだけじゃない、動的な展示。#Find5Styles
松榮:私が担当したものでいうと、5スポーツの展示も印象深かったですね。
松本:Find5Stylesですね。あれもインパクトありましたよね。展示内容にいろいろとアクションを促されるものが多く、純粋に楽しかったです。


松榮:ありがとうございます。展示をおこなった2023年がちょうどブランド55周年というメモリアルイヤーだったこともあり、普段5スポーツに関わっているメンバーが主体となって、ブランドの魅力を改めて発見(Find)してもらえるような企画を考えました。
石井:イラストもかなり好評でしたよね。
松榮:ええ、stomachache. さんというイラストレーターに全体のビジュアルをお願いして、その時代ごとの若者やカルチャーに寄り添ってきた5スポーツらしい世界観を表現していきました。
松本:原宿という場にピタッとはまっていたように思います。
松榮:ありがとうございます。こちらもテンちゃん同様に、ターゲットとして原宿にいる人たちを意識していたので、腕時計の展示であることを前面に押し出すというよりは、カルチャーを感じさせるグラフィックに興味をもってもらい、結果的に5スポーツについて知ってもらうことができればと考えました。




石井:145個の腕時計に囲まれるエリアも圧巻でしたね。見ていて楽しかったです。
松榮:あのエリアの写真や動画をSNSにあげてくださる方も多くて、見どころのひとつになっていたんじゃないかと思います。
松榮:実はこの展示は海外の方の割合がもっとも多かったんです。もともと5スポーツを知ってくださっていて、このために来日された方もいたほどで、ファンの熱量をひしひしと感じることができました。


目線の高さを、お客さんに合わせる。#LUKIA Garden
石井:ルキアの展示では、メインコレクション【LUKIA Grow】のデザインモチーフである「花」と、ソーラーウオッチにちなんだ「光」をテーマに展示づくりを行いました。




石井:光にまつわる展示づくりでいうと、アーティストの髙橋匡太さんにお願いし「光のフラワーガーデン」という体験型コンテンツを用意しました。ここでは腕時計をあえて使わずに、LUKIA Growの世界観を感じてもらうことがねらいでした。
松榮:私も体験しましたが、とても幻想的な時間でした。あと、ルキアにも歴代の腕時計が壁にずらりと並ぶエリアがありましたよね。ひとつひとつに花が添えられていて素敵でした。
石井:そのエリアは、花や植物を扱うクリエイティブスタジオ「edenworks」さんにそれぞれのルキアに似合う紙のお花(PAPER EDEN)を制作いただいて、素敵に演出してもらいました。ここはお客さんの滞在時間が特に長くて、デザインのかなり細かいところまで見てくださる方もいました。
松榮:ただ並べるんじゃなくて、人の動線や目線に合わせてリズミカルに並べているのがいいなと思いました。あと、最後に人気投票のコーナーがあって、それでお客さんもひとつひとつ真剣に見たい気持ちになってくれたのかもしれませんね。
松本:「カラー診断」や「ボディタイプ診断」もよくできていると思いました。パーソナルカラーや骨格の特徴をタッチパネルで入力すると、自分に似合うルキアを教えてくれるのはけっこう新鮮でしたね。




石井:ここは個人的に特にこだわったところでもあります。パーソナルカラーやボディタイプを専門とする菅原令子先生に教えていただきながら、どんな人でも簡単に診断を楽しめるように設計していきました。診断画面も、どこにどんなボタンを置けばいいかとか、設問の言い回しとか、そんなこと考えたこともなかったのですが、ユーザー目線に立つことの大切さを再認識できました。
松榮:診断結果の腕時計が会場内に置いてあるのもいいですよね。その場ですぐに実物を手に取ることができて、お客さんに親切だと思いました。
目指したのは、没入感。#駆動せよ!超戦士キングセイコー
石井:キングセイコーの企画展(駆動せよ!超戦士キングセイコー)はかなり振り切ったことをやってましたね。


松本:実は、最初はけっこう真面目な企画を考えていたんですよ。でも、せっかく原宿という場所で展示を行うなら、ブランドとして普段はやらないことをやったほうがいいんじゃないかという話になりまして。
松榮:どういう経緯でヒーロー漫画の案になっていったんですか?
松本:キングセイコーが誕生した1960年代に流行っていたものをうまく活用できないか、と考えたのがきっかけです。当時は特撮ヒーローが流行っていて、それって今の若い人にもわりと馴染みのある文化ですよね。これならリアルタイムでキングセイコーを知っている人も、今の時代の人も楽しめるコンテンツになると思いました。


松本:会場の仕立てでは「没入感」を意識しました。漫画の世界に入り込んだような感覚を味わってもらいたかったので、漫画パネルは大きめにしてますし、単純に二次元だけでは終わらないように、話に登場する武器やヒーローアイテムの実寸代模型をつくって展示したりもしました。


松榮:会場のBGMも躍動感があって、テンション上がりました。
松本:とにかく会場のすみずみまでこだわろうという思いはありました。
松榮:松本さん自身も特撮もの、好きですもんね。
松本:そうなんですよ。私の他にも特撮好きなメンバーがいて、仕事を忘れてアイデアを出し合うのは楽しかったです。必殺技の名前やセリフも考えたりして。
石井:会社にいて声が聞こえてきましたもん。「くらえ、俺の○☆□×〜〜」みたいな。なにしてんだろう?って。


松本:他にも、出てくるロボットやバイクのデザインもさせてもらったり。時計業界にいるとなかなか手がけることのないプロダクトも真剣にデザインできたのがよかったです。


Seiko Seedを通じて見えてきた、ブランドのこれから。


松本:今回展示活動を行ってみて、自分が担当した展示に限らず、会場でお客さんの生の声が聞けるのはブランドにとってすごくいいことだなと感じました。普段のお客さんとの接点は売り場になるので、どうしても商品についての話になりがちなんですよね。
石井:わかります。ルキアの展示でも、お客さんを通して、29年間歩んできたブランドがどれだけ愛されてきたかに気づけました。これからも愛し続けてもらえるように、時代に合わせた女性のちょっとした変化に寄り添えるようなデザインを考えていきたいと思います。
松本:原宿は海外のお客さんの行き来も多い場所だったので、まだまだ知名度が低いキングセイコーの今後としては、海外の方向けのコンテンツづくりにも挑戦していきたいです。
松榮:5スポーツは、若い世代にとって機械式腕時計の魅力を知るきっかけとなる数少ないブランドです。腕時計の魅力を次世代に伝えていくことは業界的にも大きな課題のひとつですが、「腕にあるとより人生が豊かになるもの」として、機械式腕時計を知ってもらう活動をブランドとして続けていきたいと思います。
Seiko Seedの活動は今後も続きます。どうぞご期待ください。