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カクテルタイムの謎を追え。|by Seiko watch design Vol.15

その独自の煌めきで、世界で人気のウオッチ。

河西:今回は、2010年に発売された「カクテルタイム」と、その新シリーズのデザインについて、この2人でお話をさせて頂きたいと思います。

川村:その名の通り、ダイヤルがまるでカクテルのように、艶めかしい印象で鮮やかに光っているのが特徴。「プレザージュ」というブランドの中にある人気のシリーズですね。

河西:広告の力を借りることなく約10年ほど、ずっと売れ続けている。そんな、ちょっと不思議なウオッチです。

川村:今回は、そんな謎に満ちたウオッチの秘密について、デザイナーの視点から迫ってみたいと思います。

河西:実は、このウオッチがプレザージュブランドに組み込まれたのは2017年からなんですよね。私は2017年のリニューアルから、カクテルタイムのデザインに関わることになりました。

川村:そして2019年7月、カクテルタイムに新たなモデルが加わりました。僕はその新モデルのデザイン開発からこのチームに加わりました。

河西:このカクテルタイムは、発売から約10年経った今でも、世界中で根強い人気がありますよね。

川村:海外のファンも多いようですね。中でも人気なのが「スカイダイビング」というカクテルをイメージした、アイスブルー色のダイヤルのものです。(品番SARY075)

2010年に発売されたアイスブルー色をしたダイヤルのカクテルタイム。その根強い人気の秘密は、どこにあるのだろう?(品番SARB065 販売終了)

イラストに描かれているのは、現在のカクテルタイム。詳しく観察すれば初代とのデザインの相違点に気づかされるはずだ。(品番SARY075)

河西:日本を代表するバーテンダーの方々の協力を得ながら、他のモデルもそれぞれのイメージに対応したカクテルの名前が付けられました。それから、マドラーみたいな秒針とか、アイスピックで砕かれた氷のような略字など、ダイヤル上のデザインにも遊び心が込められています。それも人気の理由でしょうね。

川村:その氷の形を模した略字なんですが、2010年の初代モデルをよく見ると2つのパーツに分かれているんです。そうすることでダイヤルが印象的に光り輝くんですよね。

眺める角度によって、そして周りの光の状況によって、その輝き方変わっていくのがカクテルタイムの魅力である。

河西:比較すると、初代モデルのほうが時計全体を強く光らせたいという強い意思でデザインされている気がします。それに比べてリニューアル版では、略字の形はシンプルなもので整え、りゅうずを大きくして、どちらかというとクラシカルな印象にまとめていますね。

川村:比較してみると、確かにそうですね。どちらが良いかは、好みだと思いますが。

プレザージュブランドに組み入れられる前のカクテルタイム。当時は、りゅうずの存在感が特に強調されてはいなかった。

現在のカクテルタイムを観察してみるとすると、りゅうずが大きいという、プレザージュの特徴が見られる。

河西:実を言うと、このカクテルタイムは、リニューアルの苦労が多いウオッチなんですよね。人気の「スカイダイビング」もそうですが、色が薄いダイヤルになるほど、色味の調節が本当に難しい。なかなか、初期モデルと同じ色に仕上がらなくて。

川村:最新モデルは深夜のバーがテーマとなっていて、イメージされるカクテルも濃いめの色合いなので、ダイヤルの色も濃いものが多いんです。それはそれで、最大の個性である放射目の美しい光が出にくかったりして、いろいろ試行錯誤しました。

河西:その一方で、大人が集う深夜のバーのイメージから、これまでのカクテルタイムとは一味違う、別の世界へ想像を広げていける楽しさもありましたよね。

川村:ええ。例えばウイスキーベースのカクテル「オールドファッションド」をイメージしたモデル(品番SARY134)では、そこからの発想でウイスキーの丸氷をイメージしたダイヤルの型打ちデザインにしました。また、ストラップもビンテージ感のある濃い茶色を選んで、全体として大人っぽいデザインに仕上げています。

「オールドファッションド」というカクテルをイメージしてデザインされたカクテルタイム。(品番SARY134)このモデルのデザインにも、多くの謎が秘められている。

同じカクテルタイムでも、こちらのモデルは「大人っぽい色気」を感じさせる。付属のストラップもビンテージ感に満ちている。

既存の技術を組み合わせた、唯一無二。

河西:カクテルタイムの最大の特徴は、ダイヤルの放射目の「型打ち」ですよね。この型打ちは、「ボックスガラス」との組み合わせで放射線状に放たれる美しい光が際立ちますね。

川村:そうですね。放射目の型打ちもボックスガラスもどちらも新しい技術じゃないけど、その組み合わせで、この透明感のある強い光が生まれるのが面白いですよね。

河西:それから、ダイヤルに「クリアラップ」という加工をしているのですが、それも効果的なんだと思います。クリアラップは、透明な塗料をダイヤルに塗布して、更にそれを平滑に磨き上げて完成させるんです。ラップを通り抜ける光と、ダイヤルの色味が重なり合って、この絶妙な色合いになるんですよね。

川村:さらに言うと、型打ちの上に、ブラシを使って「ハケ目」も入れていて、これも美しい放射を魅せる効果を上げていると思います。

ダイヤルに施された美しい放射目をボックスガラス越しに眺めることで、光の反射がより鮮やかに個性的に見えてくる。

「型打ち」と「ハケ目」と「クリアラップ」の合わせ技。それこそが、カクテルタイムという時計の、他にはない美しさの大きな要因となっている。

河西:さまざまな技術が、まさにカクテルのように多層的に重なり合っていますよね。それがこのウオッチの個性と魅力となって、手にした人を楽しませてくれるのだと思います。

川村:もう一つ、このデザインを見ていて興味を惹かれる部分があって。それは、ケースとストラップを結ぶ「ラグ」の部分です。一般的には、ケースの左右の端から接線が伸びている形状であったり、ストラップと平行にラグがケースから出ている形状のものが多いけど、カクテルタイムはその中間なんです。これも、初代デザイナーのこだわりでしょうね。

ケースから上下に伸びる「ラグ」の形状も非常に興味深いところ。当時の担当デザイナーの試行錯誤とこだわりが感じられる。

カクテルタイムは、なぜ売れ続けているのか?

河西:今回の本題である「カクテルタイムは、なぜ売れているか?」でいうと。やっぱり、このウオッチは、何よりダイヤルが鮮やかで圧倒的な楽しさがありますよね。そんな、ドレスウオッチ寄りの感覚で売れているのではないでしょうか?

川村:カクテルというわかりやすいキーワードがあって、20代でも手に取りやすい。クラシックな印象でスーツにも似合う。その一方で、モダンなデザインでもある。そんなバランスの良さもあると思います。

河西:7月発売の新シリーズからは簡単にストラップの付け替えができるようになったので、場面に応じていろんな使い分けができるのも楽しいですよね。

ドレスウオッチ的な色気を持ちつつ、スーツにも似合う。そんな守備範囲の広さも、カクテルタイムの人気の秘密だろう。

川村:若い人が、初めてのオーダースーツを作るような気分で、初めての機械式ウオッチの世界を知ってほしいですね。また逆に、スタンダードなウオッチを持っている人が、2本目や3本目に選ぶような、遊び心や色気があると思います。

河西:ボックスガラスやクリアラップの効果でかなり艶があるのに、金属ダイヤル特有のアイスブルーの色味や、放射仕上げの効果で、品良くまとまっていますよね。艶っぽさがあるけれど年齢を問わず着けられる、ありそうでないウオッチだと思います。

川村:SNSでも、カクテルタイムの写真を見かけることがよくあります。そのSNS映えも、おそらく人気の一因なのかと。時計が「自分の個性を発信するためのもの」という要素も強まっている時代なので、これからもそんな思いに応えるような、個性的なウオッチを色々と生み出していきたいですね。

謎が謎を呼ぶ時計、カクテルタイムを考察したふたり。だが、カクテルタイムをめぐる新たな謎が、これから浮かび上がってこないとも限らない。