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アストロン、先進の技術とデザイン。|by Seiko watch design Vol.18

誕生から半世紀、その変わることなき精神。

今回は2019年で発売50周年を迎えたアストロンについて語りたいと思います。半世紀もの歴史を持つブランドなので、当然、これまで多種多様なモデルが世に送り出されていますが。でも、そこには「アストロンらしさ」ともいえる、「変わることなき精神」が息づいていると思います。

それは、テクノロジーにおいてもデザインにおいても「新しい領域へ挑んで、未来を切り開いていく」ということ。では、実際のプロダクトを見ながら、そのアストロンの先進性を紐解いていきたいと思います。

鎌田淳一|Junichi Kamata 1996年、セイコー電子工業(現セイコーインスツル)入社。現セイコーウオッチ所属。入社当初、海外市場向けデザインを担当。イタリア駐在などを経て、現在、国内市場向けウオッチのデザインディレクターを務める。これまで、「BRIGHTZ」、「ASTRON」シリーズを手掛ける。

1969年に発売された初代アストロン。その世界初のクオーツ式ウオッチは、高額にも関わらず短期間で完売したという。

1969年に「世界初のクオーツ式ウオッチ」として発売された初代アストロン。その精度は、「日差±0.2秒、月差±5秒」ほどで、なんと当時の機械式時計の約100倍という画期的なものでした。その圧倒的なクオリティは、時計業界に非常に大きな衝撃を与えました。

当時の初代アストロンの価格は45万円と国産車一台相当の超高額でしたが、その後はクオーツ式ウオッチの低価格化が進み、やがて「クオーツ革命」とも呼ばれるクオーツ式ウオッチの爆発的な普及が起こることとなります。

セイコーが開発したクオーツ式ウオッチのキャリバー。機械式のウオッチと比較して、その精度を画期的に向上させた。

初代アストロンのデザインは、当時としては異例の社内コンペで決まりました。当時の担当デザイナーに話を聞くと、「金無垢ケース」という条件は決まっていて、その中で「高級に見えること」「スリムに見えること」を意識しつつ、オーソドックスなデザインを目指して考案したそうです。

ケースの表面に不規則な凹みがありますが、これは先端に円形の歯がついたリューターという機械で模様を付けたもの。当時はこのような「デンタル模様」が、貴金属ケースであることを証明する手法の一つとして台頭してきていたようです。

「薄さ」を意識したのは、当時主流の機械式ウオッチが分厚い中で、異なる個性を打ち出す狙いから。そのために、ケースからバンド部分への流れを「直かん型」ではなく、ケースが薄く見える「接線型」にしたとのこと。このスタイルを現在のアストロンにも継承し、特徴としています。

初代アストロンの側面。実際よりもケースが薄く見えるようにデザインが工夫されている。

リューターで削ることでケースの表面に付けられた模様。高級感を醸し出す貴金属を証明するためのデザインだ。

GPSソーラーの制約が、そのデザインを生んだ。

2012年には、アストロンに「第二の技術革新」ともいえる出来事が起こりました。「世界初のGPSソーラーウオッチ」の発売です。地球上のどこでもGPS衛星から電波を受信して、位置情報を取得。その地域の正確な時刻を表示できる画期的なウオッチです。

GPSソーラー自体は、あくまでテクノロジーの話ですが。極小の世界にその技術を凝縮させるウオッチデザインでは、テクノロジーとデザインは切っても切り離せない関係です。このアストロンは、構造上ダイヤルリングの下に「リング状のアンテナ」を埋め込む必要があり、ダイヤルとガラスの距離が、どうしても通常より間延びしてしまうことが分かりました。

円形のリングアンテナが埋め込まれたGPSソーラーのアストロン。初代アストロンとは、また違った佇まいを見せる。

そこで辿りついたのが、インデックスを立体的に見せて、ガラスとダイヤルの距離を「宇宙空間のような奥深さ」に昇華するデザインでした。結果として、これはアストロンのデザインの個性の一つになっていきました。

最先端のテクノロジーが生まれ、それと同時に、新しいデザインの発想が生まれる。また逆に、新しいデザインの発想を実現するべく、新たなテクノロジーが生まれる。アストロンは、そんな技術とデザインの両輪で未来へ進んできたブランドだと言えると思います。

側面から見れば、ダイヤルとガラスの間で織り成された、各種パーツの立体的な美しさと奥深さを感じることができる。

常に新しい技術とデザインに挑むブランド。

50年目を迎えたアストロンからは、今年、いくつかの限定商品が発売されました。その中の一つを紹介します。7月に200本限定で発売された、セラミックスと金属粉を混ぜ合わせたサーメット素材のベゼルを採用したチタンケースのモデル(品番SBXC035)です。

サーメットは、セラミックスと金属の粉末を混ぜ合わせ焼結して製造された、セラミックスの持つ硬度や耐久性と、金属の靱性(粘り強さ)を兼ね備えた素材です。50周年にちなみ、このベゼル部分に「50面カット」が施されています。

2019年7月に発売された50周年モデル。斬新な素材や技術を用いつつも、アストロンの正統とも言える顔つきでもある。

サーメットという素材を用いて、50面カットが施されたベゼル。50周年モデルならではの、進取の精神に満ちた造形だ。

厚みがミリ単位のベゼルを、50の面に区切りながら斜めにカットしていく。これは非常に難しい作業で、現場の人たちも非常に苦労したと思います。でも「50周年だから50面カットに」という思いを受けとめて実現してくれました。

この50面カットに限らず、アストロンは「前例がない斬新なデザイン」を提案することも多くて。それを受けて開発の人たちも「アストロンのためなら、やってみるか!」という心意気で挑んで、実現してくれたことも多くあります。

5軸のNCマシンを使って削り出しで作った2つの高精度なパーツを重ね合わせた、斬新な造形のケースもこのモデルの特徴です。そして、その2層構造を際立たせるためにケースの側面に穴を開けるという斬新なアイデアも取り入れました。

ケースの側面に開けられた穴。これも、アストロンという挑戦的なブランドでなければ採用されなかったアイデアだと言えるだろう。

「ダイヤルとガラスの間に広がる立体的な小宇宙」が、50面カットのサーメットにより、さらに魅力を増して輝く。

それでいて、この最新のアストロンを改めて見つめると。ケースの形状などの全体的な佇まいが、1969年に発売された初代アストロンにも似ていることにも気づかされると思います。斬新でありつつ、そこにはやはり普遍的な「アストロンらしさ」も潜んでいます。

不可能だった「デュアル(両面)カーブサファイアガラスへのスーパークリアコーティング加工」など、アストロンのデザインを実現するために生み出された技術も多くあります。そう、アストロンは最先端のテクノロジーだけでなく、「過去にはない斬新なデザイン」を追求・実現するブランドです。

2020年以降もアストロンは、技術とデザインの両面で、これまでにない驚きや感動を与える、そんな「ウオッチの進化」を体現するブランドであり続けていくと思います。

進化を繰り返しながら、51年目に踏み出したアストロン。次に生まれるのは、どんな新しい技術か? どんな新しいデザインか?