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Vol.6 この世界は、光と影だ。 Vol.6 この世界は、光と影だ。

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腕時計のデザインにとって必須の要件である良好な視認性の確保はもちろん、その腕時計のデザインがユーザーを魅了するものであるために。デザイナーたちはその腕時計のパーツひとつひとつの造形や色彩と同時に、そこに映し出される「光と影」を計算しながらデザインを進めていく。光を感じさせるのか、感じさせないのか。光と影を、どのように同居させるのか。そしてそのバランスは一見直感的で説明不可能にも見えるが、実は論理的な考察と試行錯誤の積み重ねによって成立している。今回は、腕時計のさまざまな美しさを織りなす「光と影」という言葉をキーワードに、デザイン統括部の船本千尋が語ります。(2018.03.16)

船本千尋|Chihiro Funamoto
1992年セイコー電子工業(現セイコーインスツル)入社。英国駐在などを経て2015年よりセイコーウオッチへ出向中。入社よりこれまでに「SUS」シリーズ、「BRIGHTZ」シリーズ、「PHOENIX」シリーズ、「ANANTA」シリーズなどをウオッチデザイナーとして担当。現在は「PRESAGE」シリーズのデザインディレクターを務める。

腕時計に「光と影の関係」を与えるデザインとは?

「光と影」といっても、もちろんそれは単純に「明るい」「暗い」という話だけではありません。さまざまな意味合いを持ちながら腕時計のデザインと密接に関係していて、切っても切り離せないものです。今回はそのあたりのことをお話しできればと思います。

まずはこの腕時計を最初にご紹介しましょう。プレザージュというブランドの中のカクテルをイメージしたシリーズのひとつです。この鮮やかでちょっと色気のあるデザインのモチーフは、その名のとおりカクテルが注がれたグラスです。おかげさまで人気商品のひとつになっています。

プレザージュ  カクテルタイム(品番SARY075)の正面写真。アイスブルー ダイヤル、丸型。
シリーズの中でも、この「SARY075」のアイスブルー色は人気があるカラーのひとつである。
プレザージュ  カクテルタイム(品番SARY075)の正面写真。アイスブルー ダイヤル、丸型。
シリーズの中でも、この「SARY075」のアイスブルー色は人気があるカラーのひとつである。

まさにグラスに注がれたカクテルのような色合いとかがやきが、この腕時計を夜のムード溢れるデザインに仕上げています。特徴的なインデックスの形は、カクテルが注がれるグラスの長い脚「ステム」をイメージしたものです。

何といってもこの腕時計の文字盤の最大の特徴は、下地に施された繊細な立体模様と磨き上げられた表面の塗膜による立体的な視覚的効果です。見る角度や光源によってまったく異なる「光と影」の関係が生まれ、さまざまな表情を見せてくれます。まるで本物のカクテルのように、その美しい光の瞬きによって私たちを魅了してくれる腕時計なのです。

したがって、このデザインシリーズは、「光と影」の効果をとくに生かしたもののひとつだということができるでしょう。

船本千尋の写真
カクテルグラスを手にした船本。ラム酒にブルー・ キュラソーを加えた「スカイダイビング」というカクテルが「SARY075」のモチーフ。澄み切った青空をイメージさせる色合いが特徴だ。
船本千尋の写真
カクテルグラスを手にした船本。ラム酒にブルー・ キュラソーを加えた「スカイダイビング」というカクテルが「SARY075」のモチーフ。澄み切った青空をイメージさせる色合いが特徴だ。

「インスタ映え」する腕時計。

このカクテルをイメージしたシリーズは販売面での人気もさることながら、写真や動画、ときには自分ごのみにバンドなどをカスタムした写真をインスタグラムなどのSNSに投稿して世界と共有しているユーザーも、多いようです。文字盤が鮮やかで光を放つ、しかもその光り具合が周りの景色や時間とともに変化していき思わず見とれてしまう、まさに「インスタ映え」する腕時計だといえるのではないでしょうか。

品番SARY075 りゅうず側側面の写真
文字盤の表面が、まるで液体のようにうるんで見える。流動的な印象を与えるその文字盤は、水のように留まることなく流れる時間をも想像させる。
品番SARY075 りゅうず側側面の写真
文字盤の表面が、まるで液体のようにうるんで見える。流動的な印象を与えるその文字盤は、水のように留まることなく流れる時間をも想像させる。

目を凝らしてよく見ると、文字盤が少し盛り上がって立体的に見えるかもしれません。しかし実際にはまっ平らです。なぜそう見えるかというと、文字盤を覆うガラスが強くラウンドした形をしているからなのです。このようにガラスをラウンドさせることで、文字盤にさまざまな角度から光が取りこまれ、その光を受けて文字盤が明るく立体的にうるんで見えてくる。本来は食品の形容に使う表現ですが、「シズル感のある」この文字盤が、インスタに向いていると受け止められているのかもしれません。そういえば、インスタにおいしそうなランチやディナーの写真を投稿する人はとても多いですよね。

当然ながらこのシリーズは、色にとてもこだわってデザインされています。その中でもとくにこの淡いアイスブルー色の文字盤は製造部門での調整が大変でした。濃い色と比べ淡い色は、濃い薄いなど色のバラつきが目立ちやすいのです。こういうところも、お酒や果汁などの絶妙なハーモニーである本物のカクテルと似ているところかもしれません。

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